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 子どもの頃、今でも忘れることのできないことがあった。
 確か小二か小三の頃の雨上がりの夕方近くだったと思う。その日も、いつもどおり二つ上の本家の兄ちゃんと思いっきり遊んでいた。
 どういう流れなのか、その辺はよく憶えていないが、本家である旅館3階のヒサシの上に立っている場面からは鮮明に記憶している。
 雨も上がり、うれしくなったのか、僕は突然その濡れたトタンの上を、ダッダッダッダッダと走り始めた。それを何度も、繰り返した。今思えばどう考えても【トランス状態】になっていたとしか思えないのだが、なんか普段とは別の自分になったような気がした。
すこしすると、下の方から、いままであまり聞いたことのないような「やさしい」声が聞こえてきた。
「あつしぃ~、降りてきなさ~い、用事あっから~」
母だった。
「あぁ、おかーさん、何や~っ」

「いいがら…ゆっくり、降りでこ~い」

「んだて、いま、兄ちゃんと遊んでだなぁもん、ねや」
と兄ちゃんを見ると、青ざめた顔をしていて、動きが止まっていた。
「ん?」変だなと、思った。

「あつしぃ~、いいものけっから~降りでこ~い」
と、ニッコリと微笑む母は天女みたいに見えた。

「・・・んじゃ、今行ぐがら」と、中に入り、階段を転げるように母のもとへ行った。

次の瞬間、
一流ボクサーのフックよりスゴい強烈な「ビンタ」が、僕のリンゴほっぺたを襲った・・・。

「滑って落ぢだら、死ぬなぁぞっ!バガぁ~っ!!」
母がいいものをあげる、と言ったのはこれだったのか、などとは思わなかったが、ビックリして、そして
とっても痛くて、泣いた。

 あとで、「なんであん時、いっつもど同んなじように、大声でごしゃがねがったんやぁ」と聞くと、
「ビックリして、足滑らせだら、お前死んでだべ」

 僕が今こうしていられるのは、あの時「天女」のような声で囁いてくれた「鬼」のように恐い母のおかげだ、と感謝している。

 
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