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 今年も夏の高校野球の季節がやってきた。この時期になると、数十年前の高校時代の不安定な精神状態の嫌な記憶が、ついこの間の出来事のようによみがえってくる。


 スキーで高校に入学した僕は、今から思えば何でもないようなことで指導者とぶつかり、2年生になる前にスキー部を退部した。高校初シーズンでの不甲斐ない成績に焦りを感じ、指導者に黙って強豪校の合宿に参加したことが、原因だった。

「俺の指導方針が気に入らないのなら、辞めてしまえ!」

「・・・はい、そうします。」

 それ以降、部室には二度と行かなかった。指導者の方も大会のたびに転倒を繰り返す僕に失望し、匙を投げたくなっていたのだろう。彼からもそれ以降ピッタリと連絡はこなくなった。

 2年生になって、あまり学校にも行かなくなり、授業をサボってきた友人たちと麻雀ばかりやっていた。「プロスキーヤーになるための道筋として、この高校に入ったはずだったのに、つまらないことで突然やめてしまうなんて・・・一体何のために僕はここにいるんだろう」などとばかり考え、退部してからはずっと頭の中がドロドロになったような状態だった。今から思えば友人たちは、「無用」のレッテルを貼られ自暴自棄になっていた僕を「変なことをしないように」麻雀を通して、ジッと見守っていてくれたのかもしれない。もしあの時期、友人たちが代わる代わる遊びに来てくれていなかったら、この世に僕はいないと思う。そんなちょうど今頃が、高2の時期の記憶と重なり、今でもあまりいい気分にはなれない。

 たまに登校した日には、いつも野球部の練習をバックネット裏から観ることが多かった。彼らが奇声とも思える声を発しながら、一心不乱に小さな白球(実際は、とても白いとは言いがたいようなボロ球だったが)を追いかける姿に、なんだか心を惹かれた。そのボロ球の中には縫い目が破れ中身が見えるものもよくあった。1年の頃、野球部の友人たちは授業中、針と糸を慣れない手つきで動かしながら、黙々と修理していた。

「なんでそこまですんな?」

「んだて、(1年生が修理するのが)伝統だがら…」

「部費(他の部より)多いべやー、買えばいいべや」

「他にいっぱい使うごどあっから、節約すねんねなぁど」

「・・・たいへんだなー」

 半端な僕などと違って野球部には、東北大などの国立大学や東京の一流私大を目指している部員が多くいた。それなのに授業中は「内職」をしなければならなかったのだ。これはどう考えてもおかしなことで、これはなんとかしなければならない、とは思ったが、恥ずかしい話、彼らから針と糸を横取りして修理を手伝うような気には、なれなかった。

 先日、そんな光景を辛い記憶として抱える僕の前に、実に画期的な事業を始めている人たちが出現した。

 「ボロボロになった硬式練習球の皮を張替え、再び新品同様の白球に戻す」という取組みだ。

「久々に母校野球部の練習を観に行き、真っ黒いボロ球で練習している後輩たちを不憫で、なんとかしてやりたいと思った。」また、最終的にボロボロの限界を超えたボールはゴミとして廃棄されると聞いて「もったいない」と感じたことが、きっかけとなったそうだ。

 その方は「部員たちの汗と涙とが沁みついた大切なボールが捨てられる」ということに抵抗感を覚え、野球部の先輩にその話をしたところ、快く協力をしてくれたとのことも早期の実現に繋がっていく。
 その後、幾度かの試行錯誤を重ね、この度ようやく納得のいく「白球」が完成したということで、そのボールを手にする機会があった。

「これが、あのボロ球だったモノですか、まるで新品じゃないですか。」

「3年かかりましたよ、ここまで来るのに・・・。」

「やりましたねー。おめでとうございます。・・・でも、この仕上がりだと値段のほうも相当するんじゃないですか。」

「いや、価格は一個250円にしました。」

「えっ、利益はあるんですか?市販されている新品の練習球はいくらなんですか。」

「通常は一個600円ほどですが、そんな価格では購入が難しいからボロボロになるまで使うわけでしょう。だから250円で再生するようにしたんです。…利益なんか最小限でいいんですよ。」

 あの時、野球部の同級生の姿を見て、なにもできなかった僕にとっては、恥ずかしくも衝撃的な「再生ボール」だった。それにしても250円という価格をどのようにして実現できたのだろうか。
 まずはボロボロの球を一旦きれいにし、芯になるところに糸を巻きなおし、新しい皮を張る。それを丹念に手縫いして完成、となる。この工程を想像しただけでも、1000円以上はするはずである。数にもよるが、おそらく中国の労働力でやったとしても、輸送コストだけで250円をはるかに超えてしまうのではないか。

 しかし、一個250円なのである。

 まだ、そのシステムの全貌を明かしてはくれなかったが、活動費に四苦八苦している高校の野球部にとってはまさに「神の手技」みたいなものではないだろうか。これも始まりは「後輩たち(の現状)をなんとかしてやりたい」という大先輩たちの強い思いがあったからである。その思いが「ボロ球の再生」システムに繋がっていったことは間違いない事実であろう。

  因みに、県内では新庄北高をはじめとして、山形南高、山形東高、日大山形高など20数校が、県外では仙台育英高など数校が、地球環境保全への取組みの一環としてすでに「再生ボール」を使用しているそうで、教育現場での拡がりは今後さらに勢いを増しそうである。
 さらに、ヤクルトスワローズでも、練習で使用したボールを再生し、ファン用のサインボールとしていると聞き、驚き、そして感動した。
 新品ボールのサインボールではない。何人もの選手たちの涙と血と汗のドラマがたっぷり詰まった練習球のサインボールなのだ。これはファンにしてみれば是非とも手に入れたい「宝物」に違いない。

 
 やっぱり新庄には、スゴい人たちがいっぱいいるのである。



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